道場スピリット マネージャー・北原希代子 作
#23いつも見られているという意識を持つ

道場は、厨房に入ると料理に気を配るのは勿論のことだが、お客さんにどう見られているか絶えず心を配っている。背筋を伸ばし、包丁は大きく流れるように、箸捌きも美しく、いつも清潔な布巾を洗い絞り、畳み方から置き方まで拘った。その上で、ときには厨房を出て客席に回りお客さんから厨房がどのように見えるか自分の目で確かめた。下ごしらえを済ました食材や、卸した魚等、ときには調味料の置き場所にも、客席目線ではとんでもないものが目に飛び込んでくることがあるからだ。
そしてもう一つ、お客さんが入っている調理場では、例え自分が親方であっても道場は、弟子を呼び捨てにしない。例えば「佐藤、焼物あがったか」と弟子に声をかけても、客席の何所に佐藤さんがいるか分からないからだ。カウンターのお客さんが佐藤さんだったとしたら、いきなり「佐藤!」と呼び捨てにされれば好い気はしないからだ。
一九九七年、アメリカのCIAと言う世界最大規模の料理学校で、日本人で初めて講義を持った道場は、多くの外国人の生徒の前で、鯛を捌き料理を作り上げた。料理の出来栄えもさることながら生徒たちが一番驚いたのは、静寂に包まれたその流れるような美しい庖丁捌きだったと言う。なぜそんなに静かなのか、能を舞うように美しいその庖丁捌きは生徒だけでなく、見学に来ていた講師たちをもすっかり魅了してしまったという。
美しい所作というのは、練習してできるものではない、自然と身に付くものだ。
いつでも見られていると言う意識が、あか抜けた世界へと誘ってくれるのかも知れない。

 

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