道場スピリット マネージャー・北原希代子 作
#12ろくさん亭の味

昭和四十六年、道場はようやく念願だった自分の店を持った。
店の名は「ろくさん亭」六三郎だから「ろくさん亭」、迷いは一つも無かったという。それよりも、まず考えたのは、どんな料理を出そうかということ。値ごろは、一万円ぐらいで飲んで食べられる値段のものを考えたい。料理人の世界では、けちな心を持っていては良い客は付かない。高いものは外し、値ごろなもので最高のものを使う。料理の流れにどうアクセントを付けて行くか、考えることは山ほどあった。
そして、ろくさん亭では、まず三つの味を楽しんでもらうことを心がけた。すなわち「前味」、「中味」、「後味」である。「前味」というのは、お客様を迎える心遣いのことで、露地に水を打ち、部屋に花をいけたりして、よく来て下さったという気持ちを表す。「中味」は、料理そのものの味わいで、季節のものを美味しく味わってもらえるよう心をこめて料理する。「後味」は、またここに来て食べたいと思わせる心で、ああ、うまかった。値段も安かった、と思わせることである。この三つの満足が揃ってこそ、ご贔屓さんとして通ってもらえるのだ。オープンした当初は一品料理が主流だったが、今は殆どがコース料理だ。お客様が何を求めてろくさん亭に来るのか、美味しいものを食べたいと言う思いは、昔も今も何も変わって居ないように思う。一日の終わりに、ほんの少しの酒を呑み、季節を味わう料理に酔う。「ああ、いい一日だったなぁー」と思って頂けるような、そんな店でありたい。
開店以来、みちば和食を愛して下さるお客様に支えられ、大好きな銀座の地に四十八年、
いまでも月替わりの献立を作る道場の姿には、料理人としての幸せが滲みでている。

 

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