道場スピリット マネージャー・北原希代子 作
#10エリザベス女王にお出しする料理

いまから二十五年前、あの伝説の番組「料理の鉄人」がフジテレビで始まった。夜十時
深夜に係る時間帯で、どれだけの視聴率が取れるのか、関係者の誰もが手探りだったらしい。決められた時間枠で料理を仕上げて審査員の評価を仰ぐ。それも、たったいま目にした食材を使って献立をたて、仕上げていくライブ感はお茶の間の視聴者にとってもかなり刺激的だったに違いない。それまでは、調理場の様子を一般の人が目にすることもなかったし、ましてや、料理人にスポットがあたることも無かった。
そんな全てが初めての番組に、なぜ道場が「和の鉄人」を引き受けたのか、私は秘かに、例のワクワク感が頭をもたげたのではないかと思っている。
二十九歳の若さで赤坂常磐家の料理長を任されたときから、フカヒレやフォアグラなど日本料理ではあまり使われない食材にも挑戦していた道場は、ろくさん亭でオーナーシェフになると、益々その幅を広げ、めきめきと頭角を現し始めた。お客様の評判が上がれば上がるほど、そんな道場の料理を「けれん」と言って揶揄する仲間もいたが、一方で、道場の作る料理は「道場和食」として広く料理界でも認知されるようになっていた。
当時、料理記者だった岸朝子さんや、服部栄養専門学校の服部幸應さんらの推薦を受け、これも伝説に成ってしまったフジテレビの松尾利彦プロデューサーが使者となって現れた。いま思えばテレビの一番いい時代だったのかも知れない。潤沢な資金と、現在でも第一線で活躍する田中経一氏、小山薫堂氏、結城節子氏等、溢れる才能に満ち満ちていた。
初めてスタジオ入りしたとき、派手な衣装の加賀丈史さんや、その食材の多さとスケールの大きさに、さすがの道場も圧倒されたと言うが、もともと修羅場は山ほど経験している道場だ!追い詰められると閃きが冴える性分なのだ。
そうした修羅場を経験した道場が、食材を見たら今でもすぐに五つ六つの料理が浮かぶと言うように、八十七歳の現在でも店の献立てを立てている。道場にとって献立を立てる作業は楽しみの一つだ。旬の食材もさることながら、道場は頭の中でいろいろなシュミレーションを試みる。時には「エリザベス女王に供するお料理は?」と始まるのだ。エリザベス女王が来日されて、ときの総理大臣がどんな園遊会にしようかと道場に相談に来た。と言うストーリー付だ。「前菜は、やはりいつもの七種盛りが好いだろう。女王はお歳を召しているから、なるべく小振りで食べやすいものにしよう。お椀は、いまの時季を感じて頂けるようなものを」と、とにかく楽しそうだ。
以前からお贔屓頂いている中曽根元総理も、道場のすっぽんタピオカ饅頭のお椀が大のお気に入りだ。いつも美味しいものを食べ慣れているからと、そういう方には高価な食材に囚わらず「肉じゃが」のような献立もお出ししている。そんな気持ちと心遣いが届いたのか、中曽根先生から「年寄りには、年寄りの料理人だね!」と言うお褒めの言葉を頂いた。
(このエッセイは2018年5月に出版されたものです。)

 

★「料理の鉄人」の通算成績は、三十二勝五敗一引き分け 勝率八割四分
スペシャルも含めて四十一戦対戦し、十一連勝の記録もある
第一回目は、一九九三年十月 フォアグラ対決勝利

 

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