道場スピリット マネージャー・北原希代子 作
#8負けず嫌いと目立ちたがり

道場の負けず嫌いは相当なものだ。人が三年かかる仕事は一年で覚えようと日夜努力を惜しまなかった。刻みもの一つでも「人より早く、人より綺麗に」と常に口にしながら庖丁を握っていた。キューリなども一度に五~六本纏めて小口に刻んだ。本数が多く成れば多くなるほど、微妙に包丁の入り方が違い、綺麗に刻むのには技術が要ったと言う。そんなにまでして努力しても、先輩に勝てなくて、隣で刻みものをしている先輩の手を、包丁の背で叩いたと言う逸話がある。無茶苦茶な話だが、当時の道場の鋭い眼光はそんな気迫に満ちていた。
早くから関西調理師大京会に属し、時間があれば会に行って「いま、一番庖丁が切れるのは誰ですか」と聞いて回り、自ら出向いて「ああ、こういうふうにやるのか」「なるほど」と、細かく観察し、ノートにとって研究を重ねたと言う。
同時に、この世界は先輩の引きたてがなければ前に進めないと、進んで調理場を片付けたり、料理をハッキリと通すこと、出来上がりを告げる言葉や動作まで全てに気を配った。
調理場を離れても、靴の磨き方から揃え方まで、先輩第一を心掛けなくてはならない。先輩の「お前できるか」の一言で、同僚の止めるのも聞かず銀座通りを裸で自転車にまたがり走り回ったこともあったと言う。兎に角、どんな形にしろ先輩に認められたかった。そんな、弛まぬ努力と面白い男だと言う評判は皆が認めるところと成り、名師範と謳われる数々の師匠との出会いを生んでくれた。
遊ぶ時は遊ぶ、ふざける時はふざける、目立とうと思えばトコトン目立つ、勿論仕事は手を抜かず命をかける。

 

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